薬物療法について
- 糖尿病の治療法
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糖尿病の治療は、食事療法と運動療法を中心とした生活改善が基本です。
しかし、それでも血糖値が上昇する場合、薬物療法を行います。
薬物療法の種類
薬物療法には、血糖降下薬を服用する方法と、インスリンを補うために注射を行う方法があります。
経口薬には、
・ブドウ糖の吸収を遅らせて血糖値の上昇を防ぐ薬
・肝臓がブドウ糖を放出するのを抑えて血糖値を下げる薬
・膵臓のインスリン分泌を促す薬
・インスリンの抵抗性を改善して作用を高める薬
などがあり、それぞれに多くの種類があります。
注射薬は、
・インスリン注射
・GLP-1受容体作動薬
の2種類に分類され、患者さんが自分で注射をします。
GLP-1受容体作動薬は、食後のインスリンの分泌を促進するもので、最初の注射薬として採り入れられます。
インスリン注射は1型糖尿病患者では不可欠とされますが、2型糖尿病でも内服薬で血糖コントロールが不良なときなどは、インスリン注射が必要になります。
インスリン注射には、作用が発現する時間や持続する時間が異なるものがあり、患者さんの病状に合わせて処方されます。
低血糖に注意
私たちの身体は、刻一刻と移り変わる体内環境に応じてインスリンの分泌量が制御され、血糖値が正確にコントロールされるという、極めて精妙なメカニズムをもっています。
薬物療法では、強制的に体内のインスリンを増加させて血糖を下げていますので、副作用として血糖値が下がりすぎることがあります。
低血糖は人体にとって危機的状態であり、だるさ、ふらつき、手指のふるえ、冷や汗、頭痛など、さまざまな症状があらわれ、さらに進むと意識不明となり生命の危険さえ伴います。
薬剤による低血糖に対処するために、薬物療法を始めると日常的ににブドウ糖などを携帯し、緊急事態には血糖値を上げるためにブドウ糖を内服します。
薬剤に頼らず、食事療法と運動療法で治療をしていれば低血糖の心配はありません。
薬物療法の最新情報
世界的な社会問題ともなっている糖尿病は、様々な治療法が開発され、またそれぞれに検証もなされて学術誌などに発表されています。ヒトの身体は様々ですから、 治療法が合わないと感じたら、見直すことも必要でしょう。
●早期多元的治療
糖尿病の早期多元的治療というのを、具体的に説 明したものはあまりないのですが、2型糖尿病患者の複数の心血管リスクに対して、早期から血圧、脂質、血糖などの治療(強化療法:ガイドラインあり) を施すもので、これを推奨する意見も散見されます。
ここで紹介する研究は、既存の糖尿病治療に加え、心血管危険因子に対する薬物療法やライフスタイルの改善の指導を行い、通常(ルーチン)の糖尿病治療のみの患者と比較しています。
この研究は、デンマーク、オランダ、イギリスの343のプライマリケア施設が行ったもので、ルーチン治療群1,379例、早期多元的治療群1,678例を 5.3年間追跡しました。
結論として、早期多元的治療の有効性は明らかではない(有意な変化は認められなかった)と報告しています。
この結果は、2008年に発表されたデンマークの研究で、「糖尿病患者への強化療法は、全死因死亡を半減させる」という報告を否定するものとなっています。
●薬に頼り過ぎてはいけない
2014年6月30日に、大阪中央区で運転者の意識障害で車が暴走し、通行人3人に重軽傷を負わせたという事件がありました。
運転していた男性(65)は糖尿病で、事故当時は低血糖で意識がもうろうとしており、自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)の疑いで逮捕されました。
薬の効き過ぎによる低血糖の疑いがあるといわれています。
低血糖の多くは薬の副作用です。
糖尿病治療に力を入れる小早川医院(名古屋市昭和区)の小早川裕之院長は、「血糖が上がる食事を治療の前提とするのではなく、糖質摂取量を抑えて血糖を上げない食事で薬の量を減らす」という方針で診療しておられ、多くの患者でHbA1c値を改 善させて、低血糖も防いでいるといわれます。
「来院した患者で結局、薬が不要だった事例もある。副作用のない食事療法のメリットは大きい」と述べておられます。
●65歳以上に強い薬は無効
2015 年1月12日の「JAMA Internal Medicine」オンライン版に、米イエール大学内分泌学助教授Kasia Lipska氏らが、高齢者の糖尿病患者に強い薬を使うべきでないというコメントを出しました。
2001年~1012年の全米健康栄養調査から、65歳以上の 糖尿病患者1288例について健康状態を3段階に分け、全員が厳格な血糖コントロールを強いられているにもかかわらず、その10年間に健康状態の改善は見 られなかったと述べています。
彼らの多くは、インスリンやスルホニル尿素薬という、低血糖のリスクにさらされる薬を使用していました。
しかし10年たっても健康状態に改善が見られないために、こうした薬剤で治療しても何の効果も得られないことが証明されたと報告しています。